業績報告書(TR) 21-88

原爆被爆者の子供の細胞遺伝学的調査,広島・長崎

阿波章夫,本田武夫,錬石昇太郎,祖父尼俊雄,榛葉八郎,大瀧一夫,中野美満子,児玉喜明,伊藤正博,Hamilton HB

要 約
原爆被爆者の子供 8,322名(広島 4,716名、長崎 3,606名)、及び比較対照群 7,976名(広島 5,112名、長崎 2,864名)に対して行った細胞遺伝学的調査結果について報告する。調査対象者の検査時年齢を 12歳以上としたことから、本調査結果には、早期死亡の危険度の高い染色体異常例に関する資料の正確さに問題があると考えられる。したがって、本調査では性染色体異数体と均衡型の常染色体構造再配列を中心に比較検討を行うこととしたが、その他の観察し得る異常もすべてこの資料に合まれている。

被爆者の子供には 19例(0.23%)の性染色体異常と 23例(0.28%)の常染色体構造再配列が観察された。一方、非被爆者の子供では性染色体異常 24例(0.30%)と構造再配列 27例(0.34%)が認められた。広島被曝群に1例の 47,XY,+21のトリソミー個体を確認した。したがって、染色体異常保有個体頻度については、被曝群(0.52%)と対照群(0.64%)との間には統計的有意差はなかった。広島では異常個体頻度に関しては両群の間に差は認められなかった(被曝群0.64%、対照群0.65%)。長崎では、統計的に有意ではないが、被曝群(0.36%)の方が対照群(0.63%)よりもやや低い傾向にあった。長崎対照群における異常頻度は広島とほぼ同値である。

染色体異常保有例に対する家族調査の結果から、均衡型の常染色体構造再配列例の多く(約90%)はいずれか一方の親を保有者として遺伝していることが判明した。均衡型構造再配列に対する突然変異率は被曝群、対照群ともに同じ値の 0.98×10-4(1配偶子当たり/1世代当たり)を得た。

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