業績報告書(TR) 2-89

原爆被爆者データの放射線被曝線量推定値における確率的誤差に対する補正について

Pierce DA,Stram DO,Vaeth M

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Radiat Res 123:275-84,1990 ; J Radiat Res (Tokyo) 32S:108-21,1991

要 約
原爆被爆者の放射線被曝個人線量推定値に非系統的誤差が存在するため、線量反応解析において放射線の影響が過小評価され、線量反応推定曲線を歪める結果となっている。線量推定誤差に対して有効な統計モデルがあるという前提で、線形及び二次線量反応モデルの両方について、このような偏りを修正する統計学的方法をここに示す。このような誤差の性質と大きさについては、現在のところ期待されるほど分かっていないのでこの前提は重要である。ここでは、どちらかといえば微妙な統計学上の問題を明確にすることに重点を置いた。この方法は線量推計値の下方修正を含むが、このことはこれらの推定値に偏りがあることを意味するのではなく、むしろリスク推定における偏りを除くための線量反応解析の一部をなすものである。本報告書は主要な焦点を線形線量反応モデルにおいているが、線形・二次モデルの場合の方法も示す。被曝線量推定上の誤差について、信頼できそうな統計モデルを幾つか検討し、誤差の大きさの実質的な範囲を示し、得られた偏りの修正値について感度分析をした。これらの誤差モデルでは、癌死亡の線形過剰リスクの不偏推定値は、誤差を補正しない推定値の 約5%~15%増であることが分かった。通常行われているように、極端に高い線量をもつ若干名の被爆者をこの解析から除くと、この幅の上限は 約10%減少する。この範囲は極度に広くはなく、また難しさはあるが統計的問題はこの方法を進めるのに十分明確であるので、ほとんどの解析にここに提案する方法による補正を行うことを勧告する。そのような補正の暫定的なものとして、検討した方法のうち中心部分の範囲における特定の誤差モデルを一つ提案する。この勧告にはDS86新線量推定方式に特有の情報は用いられていないが、早急にDS86に関連する情報を組み入れることは重要であろう。被曝線量体系の改正は、主として被爆生存者の多数の集団に影響を及ぼす系統的な誤りを修正することを意図しているが、ここに提案した方法は、個々の被爆者の被爆位置と遮蔽状況に関する不完全な情報、つまり、ほとんどが新旧両線量体系に共通な入力情報からもたらされる非系統的な誤差にのみ関与するものである。新線量推定体系の精度に関する今後の情報が極めて有用であるためには、これに関連した微妙な統計学的諸問題に注目することが極めて重要である。特に、真の被曝線量値に属する者についての推定値分布と、ある推定値を与えた者についての真の被曝線量値分布を区別することが肝要である。

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