業績報告書(TR) 13-89

原爆被爆者の子供における先天性奇形,死産及び早期死亡:再解析

大竹正徳,Schull WJ,Neel JV

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Radiat Res 122:1-11,1990

要 約
電離放射線被曝後のヒトにおける遺伝リスクを推定する際に用いられるデータセットの中で、被爆者の子供集団は潜在的に最も豊富な情報を提供する。本報告書では、最新の改訂線量、いわゆるDS86で親の被曝線量を推定し、これを最大限に利用して、被爆者の子供集団における親の被曝状況と”妊娠終結異常(UPO)”の関係を解析する。調査対象となる妊娠終結件数は 70,073例で、このうちDS86線量が計算されていないもの、又は計算することができないものが 14,770例あった。重度の先天性奇形による妊娠終結、死産、あるいは生後14日以内の新生児死亡を妊娠終結異常と定義した。妊娠終結異常の発生は、有意ではないが親の線量合計(総計)と共に増加する。

DS86新線量が利用できる親から生まれた子供(n=55,303)の観察集団に限定し、随伴変数を考慮せずRBEを 20と仮定すると、標準線形モデルによれば、シーベルト当たりの妊娠終結異常発生の増加推定値は、0.00345(±0.00343)である。中性子線のRBEを 20とし、随伴変数を補正した後の推定値は、0.00422(±0.00343)である。随伴変数補正後の1ヒットモデルによれば、0.00412(±0.00364)でほぼ同じ推定値である。

DS86線量計算に必要な線量パラメータが十分でないが、従来のT65DR線量方式からDS86に相当する仮線量への経験的変換が可能である親を含めて対象集団を拡大すると、線形モデルによる妊娠終結異常のシーベルト当たりの推定値の増加は、RBEが 20で、随伴変数補正後で、0.00264(±0.00277)である (ここで、n=69,706である。70,073例のうち、367例は、DS86線量と仮線量のいずれも計算できなかった)。これに相当する1ヒットモデルによる推定値は、0.00262(±0.00294)である。前者は、過去に発表された値より 31%高い。

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