業績報告書(TR) 3-90

Denaturing gradient gel electrophoresisを用いてDNA中の遺伝的変異を検出するための改良法

高橋規郎,檜山桂子,小平美江子,佐藤千代子

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Mutat Res 234:61-70, 1990

要 約
我々は、RNA:DNAデユプレックスの Denaturing gradient gel electrophoresis(DGGE)が、染色体 及び クローン化DNA中の変異を検索する実効的方法であるかを検討した。その結果は、多数のサンプル中の変異を検出するためには、この DGGE が Lerman らにより最初に開発されたDNA:DNAヘテロデュプレックスを用いたものより、より実用的であることを証明した。なぜならば、RNAプローブはDNAプローブより簡単に合成されるからである。3種類の32Pで標識されたプローブが作製された。我々の方法においては、染色体及びクローン化DNAは、制限酵素で切断された後、標識されたRNAプローブとハイブリダイズされ、得られたRNA:DNAデユプレックスはDGGEにより検査された。ミスマッチの存在は、ゲル上におけるバンドの移動度の差として検出された。実験条件は、1名の正常人及び 3名のサラセミア患者のヒトβ-グロビン遺伝子から得られたクローン化DNA断片を用いて決定された。クローン化DNAの実験結果は、RNA:DNAのDGGEはDNA中の塩基置換及び欠損を検出することを示唆した。この研究の過程において、染色体DNA試料中のヒトβ-グロビン遺伝子のIVS2の 666残基(IVS2-666)における 1塩基置換による多型性が直接同定された。広島在住の血縁関係にない 59名の日本人について検査を行ったところ、IVS2-666がCである対立遺伝子の頻度は 0.48であり、また、Tである対立遺伝子頻度は 0.52であった。この方法は、既知の制限酵素部位外に存在する遺伝的変異を検出するためには非常に有効であり、また、DNA中に新しく起こった突然変異を検出するための強力な技法となるに違いないと思われる。

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