業績報告書(TR) 18-91

原爆被爆者の放射線に関する眼科学的変化と加齢:再解析

大竹正徳,Finch SC,調枝寛治,高久 功,三嶋 弘,高瀬智子

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。Radiat Res 131:315-24, 1992

要 約
広島・長崎の原爆被爆者の1978年から1980年の眼科検査について、年齢に関連する眼科的所見と電離放射線との関係を、1986年線量測定方式による眼の臓器線量推定値を用いて再解析した。この再解析の主目的は、年齢および放射線被曝が眼科的変化に対して加算的効果であるのか、相乗的効果であるのか、または相反的効果であるのかを調べることにある。本研究の主眼は、原爆被爆者に明確に放射線誘発効果が認められている水晶体軸性混濁と水晶体後嚢下変化に限定する。

水晶体軸性混濁データに適合する最良モデルは、線形線量反応および年齢に関連する線形回帰係数の両方に有意な正の効果を示し、放射線量と年齢の相互作用については有意な負の効果を示す。このような負の相互作用は、放射線被曝線量に関連する相対リスクが加齢に伴って減少するという相反的効果があることを意味する。検査時年齢 40歳、50歳、60歳、70歳の人の対数相対リスクは、検査時 80歳の人よりもそれぞれ 8.2倍、6.4倍、4.6倍、2.8倍高かった。検査時 40歳の水晶体軸性混濁の相対リスクは、1Svで 1.5、2Svで 2.3、3Svで 3.4、5Svで 7.8であったが、検査時8 0歳の水晶体軸性混濁の相対リスクは、それぞれ 1.0、1.1、1.2、1.3 であった。この現象は、若年者の水晶体は高齢者の水晶体よりも放射線に対する感受性が高いことを示唆している。しかし、水晶体後嚢下変化の最良の適合関係は、線形-二次線量反応および線形年齢効果を示唆する。放射線量を二乗した二次推定値は、負の傾向を持って高い有意な効果を認めたが、負の二次推定値は極めて小さく、妥当な線量範囲内ではほとんど値に寄与しない。これらのデータでは、水晶体後嚢下変化の誘発は加齢と放射線量の間に加算的関係があることを示唆すると同時に、放射線誘発加齢効果が存在する明白な証拠もないことを示唆する。放射線と関連した相対リスクは、1Svで 1.7、2Svで 3.0、3Svで 5.1、5Svで 14.3というように、対数線形的に増加する。

加齢に伴う視力および調節力の低下は被爆者と対照者の両方に同程度に起こっており、年齢に関連する視力低下は調節力低下よりも大きかった。

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