原爆被爆者における副甲状腺機能亢進症:最新情報

副甲状腺機能亢進症と原爆被爆の関係に関する調査結果に基づき、放影研成人健康調査検診で同疾患の調査が継続され、新しい検査も追加されて行われている。

放影研常務理事 William J. Schull、 統計部 大竹正徳

この記事は RERF Update 2(4):5, 1990に掲載されたものの翻訳です。


1970年代半ばより、副甲状腺機能亢進症(HPT)の発生と頭頚部に対する放射線治療との関係に関する研究が行われてきた。興味深いことに、過去数年間にわたり、放影研成人健康調査(AHS)の2年に1度の検診において、HPTと原爆放射線被ばくとの関係が明らかになりつつあり、治療放射線被ばくに比べ、比較的低い線量への被ばくによってもこの疾患が発生することが示唆されている。

1986年8月 から 1988年7月までに 41歳以上の受診者 4,675人について放影研で調査が行われ、HPTは高線量被爆者に多く(線形傾向テスト、p<.001)、放射線被ばくの影響は若年被爆者ほど大きいことが判明した(p<.05)(藤原ら、放影研 TR 8-90)。1GyでのHPT発生の相対リスクは、すべての年齢群を合わせた場合には4.38、被爆時年齢 0-9歳の人では 11.1、被爆時年齢 20歳以上の人では 2.75であった(図 参照)。放射線影響の性差は認められなかったが、女性におけるHPTの全有病率は男性の 3倍であった。

図. AHS受診者における1Gyでの副甲状腺機能亢進症の被爆時年齢別推定相対リスク、 1986-1988年(点推定値および相対リスクの95%信頼区間)

ここで、1988年8月以降得られたHPTに関する新しいデータについて簡単に述べる。

 

HPTの診断

HPTは、副甲状腺ホルモンの過剰な分泌により発生するカルシウムおよびリン酸塩代謝の全身性異常である。その約82%-85%が副甲状腺の腺腫、15%が過形成によって発生し、残りのわずかな例が癌により生じる。

1986年に自動分析装置が導入されたことにより、放影研で2年に1度実施されるAHS検診の通常検査として、血液生化学検査を安価に行うことができるようになった。それ以後、カルシウム値が10.3mg/100ml以上を示した人について、高カルシウム血症を示す疾患の鑑別診断、副甲状腺ホルモン検査、副甲状腺の部位診断などの精査を行っている。その結果、高カルシウム血症の持続とそれに伴う血清副甲状腺ホルモンの増加(520pg/ml以上)が認められた人に対してHPTと診断している。

1988年以降の新しいデータ

1988年8月以降のスクリーニング検査で新しくHPTの発生が疑われる例は1Gy以上群に多かった。1988年8月から1990年7月までに、HPTと疑われた例が12例あり、このうち1人は女性の胎内被爆者であった。1986年から1988年までに行われた以前の血清カルシウムのスクリーニング検査では、このうちの6人の血清カルシウム値は9.9-10.2mg/100mlの境界範囲内であった。

甲状腺線量別HPT症例数を表に示す。

表. AHS副甲状腺機能亢進症例,1986-1990年
甲状腺線量 (Gy)
1986-1988年
1988-1990年
0-0.009
3 (1583)*
0
0.01-0.499
4 (1353)
3
0.5-0.999
5 (514)
0
> 1.00
7 (498)
7
線量不明
3
1
胎内被爆
0
1
症例合計
22
12
*血清カルシウムを検査したAHS受診者数

 

1986-1988年の調査では、原爆放射線被ばくとHPTの有病率との関係以外に、もう1つ重要な所見が得られた。すなわち、1986-1988年の調査の対象となったAHS受診者全員について、放射線被ばくと血清カルシウム値の関係を検討したところ、HPT患者を除いて解析しても、放射線被ばくと血清カルシウム間に有意な線形関係(共通勾配、0.073±0.018mg/100ml/Gy)を認めた。この現象について更に検討するために、1989年5月から広島のAHS受診者から無作為に選んだ 1,600人の副甲状腺ホルモン値の測定が行われている。(藤原ら、放影研RP 2-89)。

1989年5月 から 1990年8月までに、副甲状腺ホルモン値が 1,000pg/ml 以上を示した受診者は 4人認められた。これらの受診者は、1986-1988年と1988-1990年の血清カルシウムのスクリーニング検査のいずれにおいても、カルシウム値が 10.0-10.1mg/100ml の境界範囲内であったため、スクリーニング検査で異常値と判定されず、HPTを疑われなかった。これは、HPT例の中には血清カルシウムが正常範囲内の人もいることを示唆する。これらのうちの3例は甲状腺線量は 1Gy以上であった。

現在、副甲状腺ホルモンを測定した全員について、血清カルシウムと副甲状腺ホルモンと放射線被ばくとの関係の解析が行われている。この解析によって、HPT患者を除いても認められた原爆被爆者の血清カルシウム高値の原因が解明されるであろう。また。この調査で発見された血清カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの境界領域を示した人を追求することによって、顕症化の有無を観察できるであろう。

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