寿命調査被爆者集団における距離別ガンマ線および中性子DS86結腸推定線量
放影研統計部 Dale L Preston
この記事は RERF Update 9(1):8, 1998に掲載されたものの翻訳です。
放影研の解析のほとんどは、距離そのものを使わないでDS86線量によって行われている。しかし、様々な問題を考えるとき線量と距離の関係は重要である。線量を決定するものは主として 爆心地 からの距離であり、体外の遮蔽および体による自己遮蔽は重要ではあるが、二次的な役割を果たす。ここに、寿命調査集団の被爆者の距離とDS86推定線量の関係を下の図を用いて説明する。
DS86導入に際して作成された最終報告書(Roesch 1987年)には、DS86とT65Dのガンマ線および中性子の空気中カーマの推定値を比較した表(131ページ)と図(133ぺージ)が都市別に載っている。寿命調査第11報の第一部(清水ら、1990年)では、距離との関係で見た両市の被爆者のガンマ線と中性子の遮蔽カーマ推定値を図示している。これらの図(殊に第11報の図)は、DS86線量について有用な要約をしているが、いくつかの弱みがある。特に、遮蔽カーマの図を作成するために使用されたデータを示す表が発表されていないこと、そして、臓器線量と距離を比較した図あるいは表データがないということである。さらに、それら初期の報告書が発表されて以来、DS86線量推定方式の範囲が拡大され、主に長崎の工場労働者で占められている近距離被爆者が追加されている。
爆心地から広島は 2,600m以内、そして長崎では 2,800m以内の寿命調査被爆者集団の遮蔽カーマおよび結腸線量のガンマ線および中性子それぞれの平均線量を下図に示した(それ以遠の被爆者の総推定カーマは、0.001mGy未満と推定される)。座標に示したデータは、(地上)距離 100mごとに区分した被爆者の平均値である。上2つの図は、両市の推定カーマと推定結腸線量を比較している。両図が示すように、中性子線量は身体を通過することによりガンマ線量よりも多く減少している。左下図は、両市におけるガンマ線と中性子の推定結腸線量と距離の関係を直接比較している。同一の距離では中性子線量は両市でほぼ同じであるが、ガンマ線量は広島よりも長崎の方が多いことが分かる。右下図は、両市における総結腸線量のうち中性子の占める割合を距離の関数として示している。広島において、DS86の中性子推定線量が確かでないと考えられている 1.5km以遠の距離で、中性子の総線量に占める割合が 0.4%未満であることは注目すべきである。
下図作成の基となった表データと骨髄線量の表データは ここ をクリックすると見ることができます。
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