<特集>今年の科学諮問委員会(SAC)は? ~担当理事へのインタビュー~

放影研メルマガ、第1号の特集は、毎年3月に3日間の日程で開催される科学諮問委員会(Scientific Advisory Committee Meeting。略称SAC)についての、放影研副理事長兼研究担当理事 ロバート・L・ウーリックへのインタビューです。SACは日米の外部専門家で構成され、毎年放影研の研究を評価して研究活動を強化。進むべき方向を示すための勧告を行います。今年のSACは3月22日~24日、放影研広島で開催されました。

3月の委員会の開催に先立って、毎年6か月程前から、研究員、関係者が、委員に日頃の研究の内容を発表し討議するための準備に追われはじめます。

SACでは毎年、3日間の審査を経て委員たちは勧告を策定し、放影研はその勧告に基づいて次年の研究強化に向けて努力し、次回のSACに向けて報告の準備をします。

外部の専門家が客観的に放影研の研究内容を評価する、というこの仕組みは、必要不可欠にして有益です。しかしながら、研究者にとって、所属部署の研究成果や自身の論文を発表することは、とても神経を使うことかもしれません。

Q&A 今年のSACについて

副理事長兼研究担当理事 Robert L. Ullrichに聞く

今年(2019年)のSACの印象は?

私が2013年の着任以来今まで放影研で過ごしてきた中で、最高のSAC会議でした。SACのメンバー全員が私たちの研究の審査と勧告策定に、“信じられないほど精力的に” 取り組んでくれたからです。

昨年の委員の数は13人でしたが、今年は15人でした。米国と日本の併せて10人の科学諮問委員に加え、今年は昨年より2人多い、5人の特別科学諮問委員が任命されました。この5人のうち、米国から2名、日本からの1名が、分子生物科学部の審査をサポートするよう依頼されました。また、統合データ資源とバイオバンク運営の専門家が、米国から1名、日本から2名で、研究資源センター(RRC:Research Resource Center)の審査に当たりました。RRCは放影研が将来も存在意義を発揮するために、最も力を入れるべき活動としてみなされているので、今回のSACにこれらの特定分野の専門家が加わった次第です。

外部から放影研の研究を指導してもらうことは、絶えまなく新境地を切り開いていくための一つの方法です。SAC会議で放影研は、新しいアイデアや考え方を表明します。放影研が進めようとしている新しい方向性や独自の研究について、委員が率直に意見を述べてくださることは、とてもありがたいことです。

          今回のSACを振り返る

一人の研究者としてSACを見た場合、どんなことが大変でしたか?

とても長い時間がかかることですね。翌年のSACのスケジューリングは、今年のSACから始まります。その後、翌年3月のSACに向けてのすべての準備が9月に始まります。年が明けた2月頃にはすべての準備が完了し、プレゼンのリハーサルをしなければなりません。

今回は分子生物科学部が審査を受けましたが、結果はどうでしたか?

分子生物科学部は今後5年間の戦略計画と併せて、研究内容の報告をしました。戦略計画は実はこの部門だけでなく、組織全体にとっても必要です。研究員たちは、放射線がヒトの免疫系に与える有害な影響や、過去の放射線被ばくによるインフルエンザワクチンへの影響などのトピックを含めて、研究に関して効果的な発表を行いました。分子生物科学部と組織全体(放影研)は、これらの3日間の会議に基づいて、今後数週間以内にSACから正式な勧告を受け取るでしょう。私たち全員が、研究活動についてのSACの率直な意見を楽しみにしています。

バイオサンプル研究センター(BRC:Biosample Research Center)の審査はどうでしたか?

BRCは、田邉修センター長のリーダーシップの下で、2018年に開催された幾つかのワークショップを含む実績に対して、高い評価を受けました。 BRCは放影研が将来も必要とされる組織であるための基盤の一つです。田邉先生の採用によって、BRCの仕事の質がさらに向上したと言えます。

「私たちは一つのチームです」というフレーズは、あなた自身の放影研のイメージにどのように当てはまりますか。

そう、それがすべてです。そうではありませんか? その考え方は実際、私たちの新しいリサーチクラスターシステムを開発する一つの動機でした。私たちは、従来立ちはだかっていた研究者間の垣根を超えて、同じ研究分野に関心を持つ異なる部門の研究者が、部門の制限に関係なく特定のテーマで共同作業できるようにしたいと考えました。

私たちは、放影研の研究をより強固にするために、一つのチームとして真剣に取り組んでいます。部門毎という構造は、今の放影研の中では時代遅れになっています。

SACは、共同研究組織として優れた結果を生み出すために人々がどのように共同して参加することができるかという、私たちの一年間のすべての仕事の中でも代表的な事例です。

個人的な質問ですが、日本で生活するうえでどんなことに苦労していますか?

言葉の問題ですね。まだそれに苦しんでいます。まあ、だんだん良くはなってきてますけどね。話すことすらできないため、みんなが何を話しているかが理解できず、取り残された感じがすることがあります。それを除けば、すべてが気楽ですよ。たとえば、食べ物に問題があったことは一度もありませんし。納豆も食べますよ。

この二国間の職場は、あなたの米国での仕事の経験*とどう違いますか?

(*米国オークリッジ国立研究所、テキサス大学医学部、コロラド州立大学など:Ullrichの履歴は以下を参照 https://www.rerf.or.jp/about/organization/manage/ullrich/

言葉の問題もありますが、文化の違いは誤解を招く可能性があります。なぜなら、日本でのコミュニケーションが、あまりはっきり物を言わないやり方だからです。米国では、コミュニケーションの仕方は非常にはっきりしています。英語自体がはっきりした言語です。日本では、コミュニケーションの仕方は間接的で曖昧なように思いますね。時々このスタイルの違いで、私の理解が難しくなることがあります。

    忙しい中、笑顔でインタビューに応じてくれた

彼の秘書 杉山智恵は、SACが円滑に進むよう裏方として活躍しています。彼女が注目を浴びていなくとも、SACの仕事の中心には彼女がいます。彼女へのインタビューを、メルマガTOPページのリンクからご覧ください。