被爆者、被爆二世の方々の研究は世の中にどのように役立っているか

被爆者、被爆二世の方々の研究は世の中にどのように役立っているのでしょうか。

これは、次の二つに集約できると思います。

一つは放射線が人体に与える影響の実態を明らかにしました。調査研究を開始して約70年間が経ちますが、様々な知見を積み重ねることができました。

例えば、原爆被爆者では、被ばくしていない人よりがんの発生・死亡が多いことが分かっています。固形がん(白血病を除く全てのがん)は被ばく後10年くらいから影響が出始め、増加傾向は今も続いています。また、放射線の生涯リスク(危険性のこと)を見ると、30歳で約100ミリシーベルト被ばくした場合、70歳においてがんで死亡するリスクは、ない場合の20%に対して、男女平均で21%になり(1%多くなる)ます。さらに、原爆被爆者調査から、被ばくした時の年齢が若ければ、がんのリスクも大きいことが分かっています(ただし肺がんは例外)。しかしがん発生に放射線がどのようにかかわるかのメカニズムは未だ解明されていない部分が多く、今後も研究が必要です。そのためには、被爆者、被爆二世の方々からご同意を得て頂いた血液や尿などの試料(バイオサンプル)は、これからのメカニズム研究のために極めて大切です。またこのような試料は広島と長崎にしか存在しません。

もう一つには、人間が放射線から身を守るための世界的な基準づくりに貢献している点です。現代の社会では、いろいろなところで我々は放射線を受けます。放射線を受ける場として最も身近なところは病院です。病院では検査や治療のための、放射線機器を設置した部屋があり、患者さんは放射線による診断を受けますが、部屋を一歩出た廊下には、一般の方々が通っています。そのため、放射線は、室外に漏れ出ないように国の基準で厳密に管理されています。だからこそ、我々は病院の廊下を安心して通ることができるのです。放射線から人々を守るための基準を作るには、放射線のリスクの実態を知る必要があり、これに使われるのが被爆者と二世の方々から得られた研究成果です。これらの研究から得られた線量とリスクの関係は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で検証され、収録されます。次に国際放射線防護委員会(ICRP)は、このリスクの大きさに応じた放射線防護のあり方を世界に勧告します。日本を含めて世界の国々は、この勧告に基づき、それぞれの国情に応じた放射線防護基準を作り、国内の放射線管理を行います。

これらの基準は、上記の病院での医療放射線管理のみならず、福島原発事故では、原発作業者や除染作業者、さらに一般人を守る規制として用いられています。