在韓被爆者健康診断・健康相談事業

長崎臨床研究部 中溝知樹

在韓被爆者健康診断・健康相談事業は、長崎県および長崎市が大韓赤十字社と協力して行っている事業です。この事業は、在韓被爆者支援対策として、韓国に医師団を派遣し健康診断・健康相談を実施することで、原爆の後障害に対する不安の解消と健康の増進を図ることを目的としています。2004年に試験的に行い、2005年から3年をかけて韓国内を一巡しました。被爆者の皆様から「是非この事業を続けて欲しい」という励ましの言葉をいただき、今年で6巡目を迎えています。相談事業は半年に1回行われており、今回は31 回目になります。在韓被爆者(約2,400名)は、韓国全土におられるため、比較的多く居住されているソウル、大邱、陜川、釜山、馬山、光州、大田、済州の各都市が対象となっています。

今回は、馬山地域を対象に、2019 年6月9日から6月13日までの5日間の日程(実働3日間)で実施されました。馬山は釜山の西約40kmに位置する歴史ある港町で、大きなアーケードの下に無数の魚屋が並ぶ馬山魚市場が有名です。相談会場は馬山赤十字病院のご厚意により病院の講堂を使用させていただきました。派遣メンバーは、長崎市内の医師5名(長崎大学病院2名、長崎原爆病院2名、放射線影響研究所1名)、長崎県の職員2名の計7名で、医師は、事前に現地の病院で行われた健診の結果説明、健康相談、韓国内医師への情報提供などを行い、長崎県職員は、医療費支給、原爆症認定、渡日治療などの行政面での相談を行いました。

今回は、3日間で約150名の被爆者が健康診断・健康相談を受けられました。私は初めての参加でしたが、韓国の被爆者の方々の様々な体験を伺いました。被爆時の火傷による皮膚瘢痕(はんこん)、失明、引き上げ時の苦労などのいくつものお話を伺い、在韓被爆者の方々も日本の被爆者の方々と同様に、今なお、心身ともに被爆の影響に苦しんでいるということを実感しました。一方で90歳近いおばあちゃんが、生まれ故郷である広島を3年前に訪れた時の話を楽しそうにされていたのも印象的でした。

被爆者の方々は皆様、並々ならぬ苦労をされていると思いますが、相談時はにこやかに接してくださり頭が下がる思いでした。また現地の大韓赤十字社のスタッフ、ボランティアの方々には大変お世話になりました。レセプションでは、大韓赤十字社の現地責任者の方から、この在韓被爆者健康診断・健康相談事業は引き上げ支援事業と並んで、日韓の協力が最もうまくいっている事業であるとお話がありました。今後もこの事業を通して、少しでも在韓被爆者の方々の不安が解消され、日韓の友好が深まることを願います。

馬山魚市場

馬山赤十字病院(日韓国旗が掲揚されています)

相談風景(中央が中溝)