寿命調査 第10報

TR番号 1-86

寿命調査:第10報 第1部 広島・長崎の原爆被爆者における癌死亡、1950-82年

Preston DL, 加藤寛夫, Kopecky KJ, 藤田正一郎

 

編集者注:

この報告書に基づく論文は、下記の学術雑誌に掲載されています。
Preston DL, Kato H, Kopecky KJ, Fujita S: Studies of the mortality of A-bomb survivors. 8. Cancer mortality, 1950-1982. Radiat Res 111:151-78, 1987
Preston DL, 加藤寛夫, Kopecky KJ, 藤田正一郎: 原爆被爆者の死亡率調査。8.癌死亡率、1950-1982年。広島医学 41:1377-97, 1988

 

要 約

本研究は原爆被爆者の癌死亡に関する前回の報告を延長したものである。すなわち前報に、更に 4年間(1979-82年)の追跡調査で得られたデータを加え、また原爆時に 爆心地から2,500-9,999mの距離にいた長崎の被爆者 11,393人含めることにより対象集団(現在寿命調査E85と呼ばれている)を拡大した。1965年の暫定線量推定値(T65DR)を有する 91,231人のうち 6,270人が 1950-82年に癌で死亡している。T65DR線量推定値 0.5rad以上の 54,058人のうち 3,832人が、1950-82年に癌で死亡しており、その8%が原爆放射線に起因する過剰死亡例と推定される。

T65DR線量推定値を用いた特定の癌による死亡の解析結果は概して従来の所見と一致している。白血病、肺癌、女性乳癌、胃癌、結腸癌、食道癌、膀胱癌および多発性骨髄腫について有意な線量反応が認められた。新たに4部位の癌について検討し、その結果、肝臓および肝内胆管、卵巣およびその他子宮付属器の癌については、有意な放射線の影響が示唆されたが、胆嚢および前立腺の癌における正の線量反応は有意でなかった。しかし、診断上の困難性および放射線影響の薄弱性から肝臓および卵巣の癌に対する放射線影響は明白な根拠によるものとは言えない。

多発性骨髄腫を除き、全体的に有意な線量反応を示した白血病以外の各部位の癌において、放射線誘発癌死亡の相対危険度(RR)は男性より女性において高かった。一般的に女性より男性において自然癌死亡率は極めて高く、その差がこれらの差異の大きな原因となっているようである。白血病に関しては相対危険度に有意な性差はなかったが、多発性骨髄腫では男性に比べ女性の相対危険度が有意ではないが、若干低かった。

白血病死亡の過剰相対危険度が年齢に伴い減少する度合は、被爆時年齢によって有意に異なる(p=.03)。被爆時年齢が高い人に比ベ、低年齢群の過剰危険度は、当初の高い水準から、より急速に減少する。また本解析は、放射線誘発による白血病死亡の発生が、1979-82年まで続いていることを示唆している。

白血病以外の癌についても、放射線誘発癌死亡に対する被爆時年齢と暦年齢(死亡時)の影響には、統計的に有意な相互作用が認められた(p=.008)。特に、被爆時低年齢群に当初認められた高い相対危険度が時の経過に伴い減少したのに対し、被爆時高年齢群では当初相対危険度は低いがその後増加の傾向を示した。白血病以外の全部位の癌を合計した場合にのみこのパターンは統計的に有意であったが、胃癌、肺癌および女性の乳癌に関する各解析においても同様のパターンが認められた。全被爆時年齢群において、白血病を除く放射線誘発癌死亡の絶対危険度は経時的に増加している。

 

編集者注:

本報の次の部分は、伝染性疾病頻度、アレルギー、悪性腫瘍、および公衆衛生の観点から興味深い他の多くの症状に関するデータを含む。

 

挿入表一覧

  1. T65DR線量推定による被爆者数ならびに平均線量;都市別およびT65DR線量分類別; 男女合計、全被爆時年齢合計(寿命調査 E85集団)
  2. 死亡分布;死因別および被爆状況別;両市, 男女および全被爆時年齢合計、1950-82年(寿命調査E85集団、T65DR線量)
  3. 特定の死因による死亡における放射線線量反応の総括尺度;両市, 男女および全被爆時年齢合計、1950-82年(寿命調査E85集団、T65DR線量)
  4. 放射線量反応の変動、性別;両市および全被爆時年齢合計、1950-82年(寿命調査E85集団、T65DR線量)
  5. 暦年齢(死亡時)に伴う放射線量反応の傾向、被爆時年齢別;両市および男女合計、1950-82年(寿命調査E85集団、T65DR線量)
  6. 放射線線量反応の変動、被爆時年齢別;両市および男女合計、1950-82年(寿命調査E85集団、T65DR線量)

 

付録表一覧

付表1

  1. ICDによる死因分類の定義
  2. 線量反応の修飾に関する調査に使用した共変量
  3. 本報の解析で使用した線量反応モデル
  4. 有意水準計算方法における選択基準:線量傾向検定


付表2

  1. 死因別死亡率の比較


付表3

  1. 調査人数および観察人年
  2. 全死因
  3. 全疾病
  4. 全新生物
  5. 全悪性新生物
  6. 白血病
  7. 白血病を除く全部位の癌
  8. 消化器および腹膜の癌
  9. 食道癌
  10. 胃癌
  11. 結腸癌
  12. 直腸, 直腸S状結腸, 肛門の癌
  13. 肝臓および肝内胆管の癌
  14. 胆嚢および肝外胆管の癌
  15. 膵臓癌
  16. 付表3-9から付表3-15に含まれていない消化器および腹膜の癌
  17. 呼吸器系および胸内臓器の癌
  18. 気管, 気管支, 肺の癌
  19. 女性乳癌
  20. 子宮頸部, 子宮および胎盤の癌
  21. 子宮頸部癌
  22. 卵巣およびその他子宮付属器の癌
  23. 前立腺癌
  24. 膀胱, 腎臓, およびその他詳細不明の泌尿器の癌
  25. 悪性リンパ腫
  26. 多発性骨髄腫
  27. 付表3-6から付表3-26に含まれていないその他の癌

 

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