業績報告書(TR) 9-85

原爆放射線のF1世代への成長発育に及ぼす遺伝的影響に関する研究:5.広島の6歳から11歳までの小学生の身長について

古庄敏行,大竹正徳

編集者注: この報告書に基づく論文は次に発表された。J Radiat Res (Tokyo) 26:346-52, 1985

要 約
広島の原爆被爆者及び非被爆者から生まれた 6歳から 11歳までの小学校児童の資料を用いて、原爆放射線が被爆者の子供の身長に及ぼす遺伝的影響を調べるため、比較検討を試みた。

被爆群と非被爆群について、子の平均身長と分散及び片親と子又は両親と子の間の共分散と相関について比較した。平均身長で両群間の差が統計的有意水準に達するものはごく一部であるが、いずれも被爆群の方が大きい傾向を示す。また、分散でも両群間の差が統計的有意水準に達するものはごく一部であるが、被爆群の方が大きい。相関(Z変換)でも両群間の差が統計的に有意水準に達するものはごく一部にすぎないが、いずれも被爆群の方が大きい値を示す。分散値の回帰係数で、統計的に有意なものはごく一部であり、これらの回帰係数の符号は必ずしも一致しない。

以上の結果から、原爆放射線が被爆者の子供の身長に及ぼす遺伝的影響を明確に結論付けることはできなかった。なお、本研究で広島資料のすべての分析が完了したので、6~17歳の平均身長及び身長分散について非被爆群及び 1rad以上群の発育曲線の比較検討を試みた。ある年齢については両群間の差が統計的有意水準に達した。しかし、特定の傾向は観察されないので、このことが原爆放射線による影響と判定する証拠は現時点ではみられない。

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