放影研の臨床研究部について

Q 大石先生、飛田先生、本日はよろしくお願いします。改めて、臨床研究部の調査について教えてください。

A(大石)よろしくお願いします。 広島と長崎の臨床研究部では、被爆者の方々を対象とした成人健康調査と被爆二世の方々を対象とした被爆二世臨床調査を行っています。これらの調査では、対象者の方々に健康診断(健診)を受けていただき、その臨床・疫学情報をもとに、さまざまな病気の発生と放射線被ばくの影響を調べています。

Q 健診ではどのようなことを行っているのですか?

A(飛田)生活習慣(飲酒や喫煙など)や病歴についての問診、血液検査、尿検査、便潜血検査、心電図検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査、内科医師による診察を行っています。希望された方には婦人科検査、骨密度検査も行っています。一部の方には、特別臨床調査として、甲状腺の検査や眼科検査を行うこともあります。また、同意をいただいて、将来の研究のために血液や尿などの試料(バイオサンプル)を保存しています。

Q 疫学部では寿命調査で12万人、被爆二世調査で7万7千人の方々の死因やがん発生を調査していますよね。それだけでは不十分なのですか?やっぱり直接健診にお越しいただかないと分からないことってあるんですか?

A (大石)そうですね。寿命調査では死亡・死因、がん発生を中心に調査していますが、それより広く放射線による健康状態への影響一般を明らかにすることはできません。そのため成人健康調査や被爆二世臨床調査で行う健診は、被爆者や被爆二世の方々の健康状態を知るための貴重な接点になります。そして健診を病気の早期発見や早期治療、健康維持に役立てていただけるようにしています。また、健診に定期的に来ていただくことで、がん以外の病気の発生、加齢変化、検査値の変動と放射線被ばくの関係をみることもできますし、健診で得られたバイオサンプルを活用して病気の発症に関連するバイオマーカー*などを調べることができるのも大きな強みだと思います。   

* 血液や尿などや組織に含まれる、タンパク質や遺伝子などの生体内の物質で、病気の変化や治療に対する指標となるもの

Q 放影研の健診と、病院や地域の特定健診との違いについて教えて下さい。

A(飛田)疫学部が調査している12万人からなる寿命調査から選ばれた成人健康調査(約2万5千人)と被爆二世臨床調査(約1万3千人)の対象者の方々に対し、被爆者の方では1958年から2年に1回、被爆二世の方では2002年から4年に1回、放影研で長期・継続的に健診を受けていただいていることです。また、長期にわたる健診データを、生活習慣改善のアドバイス、かかりつけ医への報告、専門医への紹介などに役立てています。

Q 臨床研究部では、どのような人たちが働いていますか?何か特色がある仕事はありますか?

A(大石)一見したところでは、一般の診療所に似ています。広島・長崎ともに医師研究員、看護師、保健師、診療放射線技師、臨床検査技師、健診・研究業務を支える事務職員で構成されています。この中でも、保健師と事務職員で構成されている連絡担当者(コンタクター)は、臨床研究部の窓口として、被爆者、被爆二世の方々との関係を大切にしつつ、健診の案内を行っています。この尽力のおかげもあって、70%以上という高い受診率を保持し、精度の高い調査を継続することができています。(詳しくは2019年1月7日facebook)。

健診内容の説明風景(イメージ)

Q 長崎にも同じように臨床研究部があります。どのように広島と長崎の連携を取られていますか?

A(飛田)広島と長崎で、出来る限り同じ精度の健診ができるように心がけています。例えば、同じ手法による問診・診察を行い、検査の精度管理を徹底して行っています。情報交換や問題点の共有のために、テレビ会議を開いたり双方が訪問をしたりして直接話をすることで、問題点を把握し、業務を改善しています。もちろん、メールや電話などによる連絡の方が多いのですが、直接出向いて話すことで、初めて問題点に気付かされることもありますね。

Q  調査で得られた研究結果をどのように健診受診者の方々にフィードバックしているのですか? また、今後の改善点などについても教えてください。

A(大石)受診者の方には診察時に詳しく検査結果をご説明するとともに、広島は「けんこうの森」、長崎は「鐘」、という健康情報に関するリーフレットを1年に1回お送りしています。色々な病気に関する情報を提供していますが、放影研で行っている調査の紹介や研究結果の内容を含めることもあります。健診受診者の方から研究結果についてもっと知りたいという声がありますので、そのような記事の割合を増やす必要があると考えています。また、研究結果が論文になった時には、放影研のホームページにわかりやすい解説を載せています。

Q 今、放影研のホームページで、臨床研究部の研究員を募集していますね。どのような方に来ていただきたいですか?

A(大石)現在、広島で1名募集しています。がんやがん以外の病気(循環器病、肝臓病など)の発症に関する放射線影響の研究について興味がある人、コホート研究*やバイオサンプルを用いた研究に興味がある人に来ていただきたいです。特に被爆者の方々のデータは1958年から、血液は1969年から保存されていますので、他の研究機関ではできないような研究ができます。また、所内の研究会議は英語で行われることが多いので、留学経験がある人は放影研に早く溶け込めると思います。

* 集団を調査する研究のこと。ある要因にさらされた集団と、さらされていない集団を設定してある期間観察し、研究対象となる病気にかかる確率を比較することで、要因と病気の関連を検討する研究手法。

Q 個人的な質問になりますが、ご専門と放影研に入ることとなったきっかけを教えて下さい。また、学生時代に打ち込んでいたことや、趣味など、自己紹介できることを教えてください。

A(大石)広島大学の旧第一内科(現消化器・代謝内科)の所属で、肝臓病学を専門にしています。放影研と広島大学が共同で、保存血清を用いて放射線被ばくが肝臓がんの発症リスクに与える影響を調査することになったのが、こちらに入ったきっかけです。学生時代には硬式テニス部に所属して、放影研がある比治山に毎週ランニングで登っていました。歴史もののドラマや映画を見ることとカープの応援がストレス解消法です。歴史ものではないですが、今春にボヘミアン・ラプソディを映画館に2回見に行きました。

(飛田)私は長崎大学第一内科の所属で、リウマチなど自己免疫疾患が専門です。放射線が免疫に影響を与えるという研究結果があり、それを調べるために放影研に入りました。息子が3才になったころで、病院で働くと当直や時間外の呼び出しがあって大変だったので、そういう業務のない放影研はとてもよい職場でした。居心地がよくて20年間勤務しています。学生時代から音楽が趣味で、今はライブやミュージカルを見に行くことが楽しみです。自分でもゴスペルグループに所属して、上手な人のバックでコーラスを担当しています。

大石先生、飛田先生、今日はありがとうございました。

臨床研究部のウエブサイト URL  https://www.rerf.or.jp/about/organization/chart/clinical/