組織による放射線感受性の違い

なぜ組織の中には放射線感受性が他より高いと思われるものがあるのか。

がん発生に関する多段階機序は、すべての種類の組織において当てはまると考えられていますが、段階の過程は組織によってそれぞれ違います。成人の体を構成する約60兆個の細胞が一つの細胞(受精卵)から生じますが、コピーされたDNAのすべてに含まれる同じ情報が、様々な精密な制御信号によって、異なる形で用いられ、その結果、様々な細胞、様々な組織ができあがります。従って、ある種の組織にとって必須の遺伝子の発現は、他の組織にとっては重要ではないかもしれませんし、また逆の場合もあります。もっと簡単な例をあげると、細胞を甲状腺として機能させる役割を担う遺伝子があり、これは甲状腺だけで利用され、脳では利用されません。このような遺伝子の発現の違いが、電離放射線によってつくられた傷に対する組織の反応の違い、ひいては発がん性の違いとして現れるものと思われます。

しかし、「組織感受性」という用語は注意して使うことが必要です。というのは、原爆被爆者の疫学調査結果によると、放射線をあびた人は、そうでない人と比べてがんが何倍に増えたかという見方(相対リスク)をすると、がんの種類による違いはそう大きくありません(白血病は例外)。従って、この場合には放射線によって特別のがんが起こりやすいとは言えないわけです。他方、もし放射線をあびなかった人と比べて、どういうがんがどれだけ余分に増えたかという見方(絶対リスク)をすると、普通によく見られるがんの増え方が多く、もともとまれにしか生じないがんは増え方が少ないことが分かっています。この場合には、自然に起こりやすいがんほど放射線によっても生じやすいと言えるわけです。

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