急性放射線症

「急性放射線症」と総称される疾患は、高線量の放射線(約1-2 Gyから10 Gy)に被曝した直後から数カ月の間に現れる。主な症状は、被曝後数時間以内に認められる嘔吐、次いで数日から数週間にかけて生じる下痢、血液細胞数の減少、出血、脱毛、男性の一過性不妊症などである。下痢は腸の細胞に傷害が起こるために発生し、血液細胞数の減少は骨髄の造血幹細胞が失われるために生じる。出血は、造血幹細胞から産生される血小板の減少により生じる。また毛根細胞が傷害を受けるために髪の毛が失われる。実際には毛髪は抜けるのではなく、細くなり最後には折れる。男性の不妊症は、精子を作り出す幹細胞が傷害を受けた結果生じる。

これらの症状が起こるのは嘔吐を除いて、いずれも細胞分裂頻度と深い関係がある。ほとんど分裂していないような細胞(筋肉や神経)と比較すると、分裂の盛んな細胞は放射線による傷害を受けやすいからである。放射線の線量が少なければ、放射線症はほとんど生じない。逆に線量が多ければ、早ければ被曝後10-20日以内に重度の腸の傷害で、あるいは続いて1-2カ月以内に主に骨髄の傷害で、それぞれ死に至る可能性がある。

重度脱毛(3分の2以上の頭髪の脱毛)を報告した人の割合と、放射線被曝線量の関係を図に示す。放射線の量が1 Gyまではわずかな影響しか認められないが、それ以上の量になると脱毛は線量と共に急激に増加している。(5 Gy以上で割合が下がってくるように見えるのは、線量が過大に推定されているためと考えられている。)

急性放射線症

このテーマについての参考文献

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