放射線白内障(水晶体混濁)

放射線白内障は、水晶体の一部ににごりが生じるものであり、水晶体の後側表面を覆う傷害を受けた細胞に発生する。放射線被曝後、高線量であれば早くて1-2年、それより低線量であれば何年も経ってから症状が現れる。放射線白内障がどれくらいの頻度で重度の視力障害を生じるほどに進展するのかは明らかではないが、最近行われた調査では、手術を受けた白内障症例は1 Gy当たり約20-30%の過剰であった。被曝後早期に出現した放射線白内障については、影響を生じない低線量での「しきい値」があるかもしれないと考えられているが、最近の調査では、しきい値はないか、あったとしても0-0.8 Gy程度ではないかと示唆されている。観察された過剰白内障症例は、一般に放射線に関連するタイプのものである(後嚢下白内障および皮質白内障)。図1に、水晶体皮質混濁に関する線量反応を示す。

図1. 水晶体皮質混濁と放射線被曝線量

放射線による水晶体混濁の発症メカニズムを図2に示す。水晶体全体を包んでいる袋(嚢:のう)の内側には前側に透明な細胞の層があり(上皮細胞)、この層は、水晶体の縁(赤道部という)で細胞が分裂して、中央部に向かってゆっくりと動くことにより、水晶体の機能を保っている。放射線は分裂している細胞に特に傷を与えやすいので、まず赤道部で細胞に異常が生じ、そのような細胞が(理由は不明だが)水晶体の後方にまわって、中央部に集まる。それらの変性した細胞は光の直進を妨げるため、にごりとなる。

図2. 放射線による後極部後嚢下混濁の発症
(放射線被曝者医療国際協力推進協議会編
「原爆放射線の人体影響 1992」より。文光堂の掲載許可による。)

このテーマについての参考文献

戻る