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ゲノム解析によるトリオ調査について

調査の概要

放射線影響研究所(放影研)は、国内外の指導的立場にある専門家による助言を受け約10年を掛けて調査の準備を進めて来ましたが、このたび被爆者と被爆二世を対象としたゲノム解析を開始することといたしました。放影研では、親の受けた放射線被ばくがその子どものDNA配列(ゲノム)に与え得る影響について、より深く理解したいと考えています。本調査は、最高水準の科学的・倫理的基準に則って実施され、そこでは研究参加者の意思を最優先し、個人情報の保護を徹底して行います。
ヒトの細胞のDNAは、両親それぞれから1セットずつ受け継がれる約30億のヌクレオチド(A、T、C、G)の塩基対で構成されますが、DNAが親から子への受け継がれる際、50-100箇所程度の「新たなDNAの変化」が自然発生します。人類の進化の過程で、ヒトのDNA配列(ゲノム)約30億の塩基対のうち約0.1%(1,000塩基対に1個)について「個人差」が生じ、私たちの顔立ちや身長、髪の毛の色、眼の色、味覚の感じ方などが互いに異なっているのもこのためです(遺伝的多様性)。
これまで、妊娠時の親の年齢、親の喫煙歴や化学物質への曝露等が、子どもにおける「親にはない新たなDNAの変化の数」を増加させることは既に明らかにされていますが、親の受けた放射線がその子どものDNA配列に影響を与えるかどうかは明らかにされていません。そこで、本調査では、被爆二世の方たちについて、親にはない新たなDNAの変化の「数」を調べます。具体的には、まず父母とその子どもからなる3名(トリオ)を1組として DNAを解析します。次に、高い線量の放射線を被ばくした方の子どもとそれ以外の方(きわめて低い線量の放射線を被ばくした又は放射線を被ばくしていない方)の子どもにおけるDNAの変化の数を比較します。
本調査は、親の受けた放射線が子どものDNA配列(ゲノム)に影響を与え得るかを理解するための基礎的知見を蓄積するものであり、こうした領域の将来的な研究に役立つものと考えられます。
なお、先に述べたようにDNAの変化は様々な理由から発生するため、本調査で同定される個々のDNAの変化が放射線の影響によるものであるか、自然に発生したものであるかは区別できないことに留意する必要があります。さらには本調査からは、被爆二世の方々が、ある種の病気にかかりやすいと言及できるものでもありません。
また、本調査の主たる目的ではないものの、DNA解析の過程で、親や子どものゲノムに「病気の原因となり得るDNAの変化」が偶発的に見つかる可能性があります。これまでの医学研究では、病気と関連する可能性が報告されているDNAの変化は、きわめて稀であることが明らかになっています。こうしたDNAの変化のうち臨床的に意義があり、かつ研究参加者の希望がある場合には、その結果を研究参加者に伝える可能性があります。このような場合、研究参加者の希望を確認したうえで、当該情報が参加者本人の健康管理に資するものであると判断された場合には、その情報を研究参加者に伝えることを想定しています。

調査の進め方
(1) DNAの抽出  研究参加者の方々からご提供いただいた血液試料からDNAを取り出します
(2) ゲノム解析 専用の機器を使って、参加者一人ひとりのDNAの配列を読み取ります
(3) 新たに発生したDNAの変化の「数」の確認 被爆二世の方たちについて、親にはない新たに発生したDNAの変化の「数」を調べます。
(4) 親の放射線被ばく線量による比較  高い線量の放射線を被ばくした方の子どもとそれ以外の方(きわめて低い線量の放射線を被ばくした方、または放射線を被ばくしていない方)の子どもにおけるDNAの変化の数を比較します。
倫理・社会との関わり

放影研では、文部科学省、厚生労働省および経済産業省が定めた「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を守り、研究を行っています。本調査では、対象となる方お一人おひとりに研究内容を直接ご説明し、ご理解をいただいたうえで、参加するかどうかを自由に決めていただいています。調査に参加された後であっても、参加者の方は、ご本人の意思により、理由を問わず、いつでもこの調査への参加を取りやめることができます。 放影研では、研究者だけで研究を進めるのではなく、被爆者の方々、被爆二世の方々、そして市民の皆さまと意見を交わしながら、よりよい調査研究を一緒に考えていくことを大切にしています。これまでに、本調査に関する市民公開講座や調査参加者向けの説明会を行い、放影研のオープンハウスでも本調査について紹介してきました。 さらに、研究を多角的な立場から確認し、必要に応じて助言を受けるため、被爆者や被爆二世の方々、放影研の外部の専門家からなる「外部諮問委員会」を設けました。また、社会との対話をより深めるため、「ELSI・社会共創委員会」を設立しました。この委員会には、ゲノム研究の専門家、倫理の研究者、遺伝カウンセラーなど、放影研以外の組織に所属する専門家に参加していただいています。 放影研は今後も、意見交換の場や本ホームページを通じて調査に関する情報を分かりやすくお伝えし、社会の皆さまと話し合いを続けながら、理解を深めていただけるよう努めていきます。 人を対象とする研究の倫理指針に関する詳しい情報をご覧になりたい方は、下記サイトをご参照ください。

個人情報の保護と、調査への参加の辞退について

放影研では研究参加者の方々の個人情報を厳重に保護しています。本調査の結果は学術誌や学会などで公表されることがありますが、研究参加者の方のお名前やご住所など個人が特定されうる情報が公表されることはありません。 研究参加者の方々で、もし、試料・情報をこの調査に使用してほしくないと思われる場合や、その他ご質問などがある場合には、下記までお問い合わせ下さい。お問い合わせいただいても、不利益が生じることはございません。

よくあるご質問
Q. ゲノムとは何ですか?遺伝子と同じ意味ですか?
A. 私たちの体を作っている約37兆個の細胞の一つひとつには、生命を維持するために必要な情報が含まれています。その情報を持っている分子がDNAで、ヌクレオチドと呼ばれる小さな分子が集まってできています。私たちの細胞には、およそ30億塩基対分のDNAが含まれており、これらすべてを合わせたものを「ゲノム」と呼びます。 ヌクレオチドは、本に使われる一文字一文字にたとえることができます。文字が長く並んだ文章全体がDNAであり、その文章をすべて集めたものがゲノムです。 その中で、目の色や血液型など、特定の性質に関わる情報をもつ部分は「遺伝子」と呼ばれます。ゲノム全体のうち、遺伝子として働いている部分は、わずか1~2%程度にすぎません。

Q. どういう組み合わせの親子を調べるのですか?
A. この調査では、父母とその子どもからなる 3 名(トリオ)を1組として調べます。英語で3人組のことを「トリオ」と呼ぶことから、本調査は「トリオゲノム解析」とも呼ばれています。高い線量の放射線を被ばくした方の子どもとそれ以外の方(きわめて低い線量の放射線を被ばくした方、または放射線を被ばくしていない方)の子どもを対象としております。


Q. 個人情報やゲノムデータはどのように守られるのですか?
A. 調査にご参加いただきます皆さまのお名前やご住所などの個人情報は試料・情報からは取り外す処置を行っています。その際、一人ひとりに「研究番号」を付け、研究者はこの番号を用いて調査を行います。そのため、個人情報やゲノムデータは、研究者がデータを見ても、どなたのものか分からない形で厳重に管理されています。また、データを見ることができるのは、特別な許可を受けた職員に限られています。公表される調査の結果には、個人を特定できる情報は一切含まれません。


Q. 調査の結果はどのように社会に報告され、役立てられますか?
A. 調査の結果は、学術誌や学会などを通じて発表されます。その際に示されるのは、「全体としてどのような傾向があるか」というまとめであり、個人ごとの調査結果が公開されることはありません。また、調査にご協力いただいた方々やそのご家族、市民の皆さまにも、調査の内容が正しく伝わるよう、わかりやすい情報を発信していきます。さらに、この調査で得られた結果が、放射線の安全性を考える際や、医療・教育の場などで役立つ形で活用され、社会に還元されることを願っています。


Q. この調査では、全ゲノムのDNA配列の多くを解析するときいています。一般に、DNAの変化のうちの何%が病気の原因となるのですか? また、このDNAの変化は、親が被ばくした際の放射線の影響によるものなのですか?
A. ヒトの細胞のDNAは、両親それぞれから1セットずつ受け継がれる約30億のヌクレオチド(A、T、C、G)の塩基対で構成されますが、DNAが親から子への受け継がれる際、50-100箇所程度の「新たなDNAの変化」が自然発生します。人類の進化の過程で、ヒトのDNA配列(ゲノム)約30億の塩基対のうち約0.1%(1,000塩基対に1個)について「個人差」が生じ、私たちの顔立ちや身長、髪の毛の色、眼の色、味覚の感じ方などが互いに異なっているのもこのためです(遺伝的多様性)。本調査で同定される個々のDNAの変化が放射線の影響によるものであるか、自然に発生したものであるかは区別できないことに留意する必要があります。

これまでの活動と進捗の報告

お問合せ

研究についてのご意見やご質問については下記のメールアドレスにご送信ください。

research-info@rerf.or.jp