被爆者の子供における血液蛋白質の突然変異(1975-1985年の調査)
1976年当時はDNAの突然変異を直接スクリーニングする技術がなかったので、放影研では次の2種類の突然変異蛋白質を指標として調査が行われた。一つは、塩基対置換型突然変異によって起こる電気泳動上の「まれ」な変異型で一次元電気泳動法を用いて検出されるものであった。他方は欠失型突然変異に起因する酵素活性減少蛋白質変異型であった。
10年間にわたり、寿命調査(LSS)集団に属する被爆者および非被爆者の子供の合計約2万4千人について、血液中の30種の蛋白質を電気泳動法により検査し(表1)、そのうち約1万人については活性減少変異型についても調査が行われた(表2)。親の合計生殖腺被曝線量が0.01 Gy以上の子供(被曝群)と0.01 Gy未満の子供(対照群)の2群に分類した。その結果、「まれ」な電気泳動上の変異が合計1,233例、活性減少型の変異が合計47例検出された。これら変異型を持つ子供については更に両親の検査が行われ、その結果大半は親が保因者であり、親の生殖細胞に生じた突然変異に由来するものは電気泳動上の変異型が6例、酵素活性減少変異型が1例のみであった。電気泳動法による調査では、突然変異は被曝群に2例、対照群に4例検出された。また、酵素活性減少を示す突然変異1例は被曝群に検出された。
表1. 電気泳動変異体に関する結果
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*重み付けした平均線量0.49 Gy
表2. 酵素活性の低下した突然変異に関する結果
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以上の結果は放射線誘発生殖細胞突然変異の証拠を示すものではない。しかし、酵素活性減少の調査は、放射線の影響を十分な統計的検出力をもって検出するには規模が小さすぎることに加え、後になって、電離放射線が塩基対置換型変異を引き起こすのは極めてまれで電気泳動上の移動度の変化は生じにくいことが明らかになったので、上記の結果は不思議ではない。そこで現在は、DNA突然変異の直接的なスクリーニングが行われている。