研究計画書 2-14

成人健康調査集団における心臓超音波検査を用いた心臓病の研究

要約

放射線治療による高線量被曝では心血管疾患リスクが上昇することが知られている。寿命調査(LSS)では近年、原爆被爆者において心血管疾患死亡の過剰リスク(特に高血圧性心疾患、心不全、リウマチ性心疾患)が報告されている。放射線治療を受けた乳がん患者の疫学調査結果においては微小循環障害に起因する心臓障害の可能性が示唆され、動物実験の結果からラットへの放射線全身照射が心臓拡張障害に関連するとの報告もある。従って、我々は原爆放射線被曝によって被爆者の心臓拡張機能不全が生じると仮説を立てた。本調査は、被爆時年齢15歳以下の成人健康調査(AHS)対象者に対して心臓超音波検査と血液検査を実施し、心不全の診断と心不全サブタイプの分類を行う。我々の主目的は拡張期心不全に対する被曝の影響を評価することであるが、第二エンドポイントとして、収縮機能不全、高血圧性心疾患、弁膜症、虚血性心疾患も心臓超音波検査によって評価する予定である。本調査計画書は、これらの情報を広範に収集するための標準的な検査手技を実施することを計画するものである。標準的な検査手技の過程で入手される画像情報を適切な形式で保存することによって、今後更に詳細な心機能解析(スペックルトラッキング解析)を実施することも可能となる。このスペックルトラッキング解析については改めて別の計画を立案する予定である。

本調査で評価を予定している心疾患サブタイプに関連する指標はすべて、米国心臓超音波学会のガイドラインおよび勧告に準拠した心臓超音波検査手技に基づいて入手する。調査対象として、広島・長崎の被爆時年齢15歳以下のAHS受診者約2,700人(胎内被爆者を含む)を予定している。心臓超音波検査と同時に、心臓組織傷害および損傷修復過程の結果生じる心臓の線維化、リモデリングの指標となるバイオマーカーを測定する。

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