研究計画書 1-23-1

プロジェクト1:原爆被爆者における放射線関連クローン造血の評価

要約

加齢の過程で発生し得るクローン造血は、造血器腫瘍および心血管疾患のリスク増加に関係している。放射線被曝がクローン造血発生に及ぼす長期的影響について次世代シーケンス(NGS)解析を用いて検討した調査はまだない。このプロジェクトでは、数十年前に高線量(>1 Gy)に被曝した原爆被爆者では、特にTET2とDNMT3Aなどのエピジェネティック修飾遺伝子およびTP53やPPM1DなどのDNA損傷応答遺伝子における反復体細胞変異によりクローン造血が促進されるという仮説を立てた。この調査では、原爆被爆者の保存血液細胞を用いてNGS解析を行い、体細胞変異を伴うクローン造血について評価する。T細胞受容体(TCR)ディープシーケンス解析は造血幹細胞(HSC)の関与しないT細胞クローン性増殖を特定することが可能であり、T細胞由来の反復変異がNGSを用いたクローン造血評価に含まれるのを避けるため、TCRディープシーケンス解析も同じ試料で実施する。さらに、高線量被曝者(>1 Gy)および非被曝者(<5 mGy)について3つの主要なアラーミン(HMGB1、 IL-33、S100A9)の血漿レベルを測定し、放射線被曝とクローン造血との関連性について調べる。今回のNGSに基づくクローン造血評価から得られるエビデンスにより、被曝からかなり後での放射線被曝者におけるがん及びがん以外の疾患のリスク増加の根底にある共通の分子的機序―すなわちHSC増殖に関わる体細胞変異の存在―が判明するかもしれない。

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