研究計画書 1-23-3

プロジェクト3:放射線被ばく後のクローン造血、血液指標、ならびに炎症性の評価が可能なマウスモデル

要約

クローン造血は放射線被ばくや炎症性疾患のリスク増加に関係しているが、動物実験でそれについて検討されていない。本プロジェクトは、放射線被ばく後のクローン造血がどの程度末梢における単球増多をもたらすか評価するために、放射線照射マウスのクローン造血が動脈硬化形成を促進するような炎症性の状態に関わっているという仮説を検討可能な一つあるいは複数のマウスモデルを確立する。本プロジェクトの基本的な実験手順は、1) 照射および非照射マウスについて、骨髄細胞の全エクソームシーケンスで体細胞突然変異を検出してクローン造血を同定し、血液指標の縦断的測定とマクロファージ機能の試験管内解析を行う、2) 放射線照射した LDLR-KO マウスで形成された動脈硬化巣に蓄積した単球について、あるいは同マウスにクローン造血を示したマウスからの骨髄移植を行なったものの動脈硬化巣の単球についてクローン性を検討する。クローン造血の発生率ならびに関連する血液指標は、3 Gy または 0 Gy 照射した B6C3F1 マウス (C57BL/6 と C3H/HeJ の交配で生まれた F1 マウス) で比較検討する。また、LDLR-KO および B6C3F1 マウスについてクローン性評価のための遺伝的マーカーとして初期発生時に自然に生じた突然変異 (spontaneous mutations, SPM) が有効か検討する。LDLR-KO マウスで形成された動脈硬化巣に蓄積したマクロファージの中で特定の SPM を持つものの増加がみられると予期する。本プロジェクトで開発されるマウスモデルは、原爆被爆者で心血管疾患など炎症性疾患のリスク増加の背景にある炎症性状態と、放射線関連クローン造血との関係について機序的な説明を可能とするであろう。さらに、これらのマウスモデルで評価可能な造血幹細胞の動態から、クローン造血の数理モデルの開発や、放射線被ばく後に発生した動脈硬化に関与する因子間の交互関係に関する情報が得られるであろう。

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